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名合貴洋 (なごう・たかひろ)

価値をもたらそうというモチベーションや、
活動を含めてのアート

Talk #5

画家

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自然と現代の人間の世界が変化していく様子や、その変化の波に乗って生きていく感覚を繊細で大胆に描く名合さん。

 

作品をしばらく見つめていると自分が今立っている、この世界の不思議さとたくましさに驚き、そうして気がつくとどこからか力が湧いてくる。

 

「『自分で生き抜く』という感覚を伝えられないかと考えています」

 

米国オクラホマ州立大学化学科を卒業し、そこから絵画の道に進むという変わった経歴を持つ名合さんに、今回の企画やアートについてインタビューしました。

 >名合貴洋さんのプロフィール

アメリカでは生身の剥き出しの人間性が描かれている、
これがアートなんだなと

ー アーティストになったきっかけは何ですか?

あまりうまく喋れないんですけど、もともと絵を描くのは好きで、ニューヨークに旅行に行った時に、メトロポリタン美術館やMoMAで「あ、アートってこんなふうに描いてもいいんだな」て思ったことがあったんです。だからってその後すぐにアーティストになろうと思ったわけではなくて。それか らしばらくして地元瀬戸内でもアートイベントをやる(瀬戸内国際芸術祭。対象地区が岡山・香川の両県に跨る、一大イベント。トリエンナーレ形式で、第1回の2010年から3年ごとに開催され ている)ようになって「アートをやってみたら面白いんじゃないか」と思ったのはきっかけですね。 それまでは風景をよく描いていました。

ー 絵を描くことが好き、というのは子どもの頃からということですか。

そうです。めちゃくちゃうまくもなく、小学生や中学生でよくいる「ノートに落書きするのが好きな やつ」みたいな。

ー メトロポリタン美術館やMoMAで印象に残っている作品はありますか?

全体的にどれもやばかったですけど、特に「ジャクソン・ポロック」(抽象表現主義“ニューヨーク派”の代表的な画家 1912-1956年)ですね。とにかく「これをアートにして しまっていいのか!」っていう衝撃がすごくて。

 

MoMAには彼のペンキをぶちまけた作品があって、日本で私が感じていた「アート」は、とても範 囲の狭いものだったと感じました。アメリカでは生身の剥き出しの人間性が描かれている、これが アートなんだなと。

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〈引用:MoMA 、ジャクソン・ポロック ワン:ナンバー31 1950年〉  

あと印象に残っているのはメトロポリタン美術館に展示されている浮世絵がどれもすごく鮮やか で「一番いいのは日本には残っていないんだな。全部持ってかれてるんだな」と実感しました。

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〈引用:メトロポリタン美術館、葛飾北斎 参議仁(みなもとのひとし)の詩「百人一首姥が 絵時」より〉

それからニューヨークの「グラウンド・ゼロ」(2011年9月11日ツインタワーが崩壊して以降は 「グラウンド・ゼロ」と呼ばれるようになった場所)も見に行ったのですが、そこでは世界の騒乱の 激しさを感じました。日本に住んでいると自分には関係ないと思いがちなんですけど、アメリカに 留学していた時も「剥き出しの人間性」を肌で感じていて、それもあって「これをアートで自分も表 現できないか」と考えるようになりました。

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〈引用:HHOJO、グラウンド・ゼロ〉

日本の世界観をグローバルに対してどう見せるか、表現していくか

ー 「人間性」というキーワードがお話の中でよく出てきますが、名合さんの琴線に触れた理由は何かあるのでしょうか。

そうですね。小さい頃に両親が共働きだったため、おじいちゃんおばあちゃんの家によく預けら れていました。おばあちゃんが35歳の時に母を出産していて、おじいちゃんは世界大戦で満州に 行っていたような時代の人なんですけど、その中を生き抜いてきた感覚をおじいちゃんの語りの 中で感じていて、ある種イキイキとしたところをベースに感じていて、それが現代日本に全くない なというのを感じました。

 

戦争がないのはいいことだし、平和なのはいいことなんですけど、それが普通なのかな、と思っ て生きていたら、アメリカ留学中に出会った、ほとんどのアラブ人やアジア人、ヨーロッパ人、アメ リカ人などはみんな「自分で生き抜く」という感覚を持っていました。この感覚は日本人には全くな いな、これを伝えたらいいことになるんじゃないかな、というすごくフワッとした感覚が、きっかけかもしれないです。

ー すごく面白いですね。よく言われる話かもしれないんですけど、日本人というか日本はある 意味言語障壁などいろんな形で守られていて、護送船団方式みたいな形でやっていくところもあ るけど、海外などは多くが人種の坩堝(るつぼ)的な場所で、さまざまなバックグランドを持ちなが らも身体一つで生きていくシビアさなどもあると思うので、生身の人間のリアリティを感じたのかな と。

護送船団とかって、個人的に言葉を選ばずにいえば外に出なさすぎていつか沈む泥舟に乗っているというか。それを日本人に伝えるのが思ってる以上に難しいなと思います。

ー そうですね。ローカルの経営者と話していると、自分達が変わらなきゃいけないのは言葉 ではわかるけれども、商業圏が目の前のお客様たちなのでそこが大きく変わっていく世界観がイメージしずらい。外に行くリスク、切迫感を持って動けない環境は全日本的にありますよね。

だからと言って「変わっていかなきゃ行けない」という議論も違和感があって。「変わらなきゃい けない」と言うと現実の全否定みたいな感じになるじゃないですか。単純に「世界では何が起きているのかな」と考えて、その状況を見て変わる変わらないを選択するので、変わることが全てで はないかなと思います。なので「変わらなきゃ行けない」という話という話も少し違うのかなと。

ー アートで伝える方法が適していると思った理由は。

私自身、世界観の狭い田舎生まれなんで、割とそのなんでしょうね、初めは感覚で伝えればいいやと思ってやっていました。フワッと感じた部分をミーム的に伝えられたらいいかなと。論理的 に積み上げるのではなく、感覚でこんな感じかな、という。

 

最近は説明を結構求められる時代になってきたので、論理的に作るようにしなきゃいけないな と感じています。

 

あとはちょっとずつでいいので、日本の世界観をグローバルにどう合わせていくか、表現してい くかを探っている段階です。

ー 日本という民族的に属している部分を逆にインターナショナルに伝えることに面白さを見 出してきていると変遷しているということですか。

そうですね。そこを探っている感じです。アーティストという枠にはまるのでなく、アートを含めてこの世界を乗りこなしていくイメージですかね。

瀬戸内の環境に対して自分の感じている身体的なものと、先端技術で 進んでいく世界に適応しようとするもう一人の自分

ー 今回の企画参加にあたって、どのような思い・考えがありますか?

セトコレ(瀬戸内アートコレクティブ)の存在が、よくある田舎でアーティストを集める取り組みの形にならず、片倉さんが経営コンサルという仕事を応用して、グローバルな視野で客観的に見ながらアートを見つつ展開しているので、絶妙なポジションで成功している気がします。 この時代への適応力を面白い視点で行なっているので、面白いことができるんではないかなと 思っています。

 

瀬戸内というものを、付かず離れずブランド化できればいいな。瀬戸内をなんとなく感じさせるようなアート集団で、瀬戸内のブランドを作っていける、それでいてあまりに地元べったりにならないようにやっていければというのがミッションですね。

ー 僕も一応油画専攻で美術大学を卒業しているんですが、当時からアートで飯を食ってい くってリアリティがなかったんですね。それは狂気的な人生を通して体現していく存在であるファナ ティックなアーティスト像、というところに全くリアリティを感じられなくて、それよりはアートマーケッ トやそれを取り巻く社会環境や、あるいはアーティストがテーマにしている社会問題とか、言葉の 変換をしていけば世の中にとってとても重要な要素を秘めているので、かつビジュアル的な面白 さなど、それをうまく世に共通な価値として問うていくことはとても大切なことだと感じて。とはいえ、現実問題個々の作家が制作をしながらご飯を食べて、作品の品質を上げていくこと、作品自体もそうだしコンセプトの磨き込みもそうだし、あるいはグローバル視点の刺激の交換も やっていくことは、それなりの体力や資金、運も、さまざまな条件が必要になってくるので、そこの ブーストを作っていければと。2−3年やってローカルの受け入れられ方がわかってきたので、作 品の作り込み、届け方などの工夫をもっとしていきたいと思っています。

ー 話し過ぎてしまいました(笑)。今回の企画展について思うことはありますか?

商業ビルではあるんですけれども、高級志向なので、そこを踏まえつつ、香川県は瀬戸芸のイメージが強いのでなるべく面白いことができればと思っています。

ー 今回の企画展では、作品を購買することをサブテーマにしています。数万円だと購入ハー ドルが高いという点で、価格帯を抑えてグッズ化したものや樋口さんのおっしゃっていたような中 間制作物、一点ものだったり、サブスク(サブスクリプションの略。本企画ではアートの定額制レンタル)で作品を提供するなど、アートに対して能動的に関わる人を増やすことがサブテーマである んですが、そういう意味も含めて企画について思うことがあればイメージつきやすいですかね。

今回は割と量産的なアートを目指していて、鹿をモチーフで作ろうかなと考えています。テーマ自 体は身近なものを描こうかなというところですね。

ー 鹿の色違いなものと雲と鳥ですね。

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〈a deer 2023〉

なんとなく瀬戸内を感じさせつつ、自分の感じている環境と、先端技術で進んでいくもう一つの人間性を出していこうと。量産はまとめて作るとコスパがいいので、その後にもう少し手間のかかる作品を作ろうかなと。

ー 作品を売るとか買ってもらうことに対してどんな感覚を作り手としてもちますか?

基本アートは世界観共有なので、共鳴して買ってもらえるようには作っています。

 

作品をご購入いただいて、気に入ってもらえたら嬉しいし、ありがたいです。昔は風景画だった ので綺麗だから買ってもらっていました。最近はコンセプチュアルなものばかりですけど。とはいえコンセプチュアルにしすぎると手がつけられなくなるので、最近は具体的なものを組み合わせ るように意識しています。

風景画はクラシカルな感じなので、50歳以上の年配の方が購入してくださる層として多かったで す。

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〈個展「Vibration -鼓動-」 (天神山文化プラザ/岡山) 2019〉

世界中の言葉を集めて作った作品は、若い女性が多い。コンセプチュアルは富裕層の社会的ポジションのある方が購入されていきますね。

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〈Energetic Background 2018〉  

今回のコンセプトは「古来からの自然とニューネイチャーと最先端」です。立体オブジェも作るので面白さができるように考えています。

海や空などの自然と、人間というもう一つの自然

ー 今回出品する作品について、テーマやコンセプトはなんですか?

今回は「自分の身の回りにあるもの」を題材にして、瀬戸内のメンバー6人で行うので、自分の 周辺環境で馴染みのあるモチーフを取り入れようとしました。身近に見えてくる自然がある一方 で、人間社会というもう一つの自然を無視したくない、という点で先端技術の象徴として「ポリゴ ン」をフォーカスしています。

 

両方があるのが今の僕らの日常なんだろうな、というところを作品に組み込もうとしています。

ー 鹿とかって意外と見ない気がするんですけど岡山はいるんですか?

意外といます。一番最初に話していた「生きる」を考えていたときに、山道を車で走っていたら鹿 が一頭いまして、左から右にピョンピョンとガードレールを飛びこえていってその躍動感がいいな と思って。鳥の空を飛ぶ軽やかさ、ビジュアル上は白いんですけど、モチーフはカラスです。 山に住んでいる生きのいいカラスから作っているイメージです。

ー 作品を作る際にどのような素材や技法を使用しますか?

今回はデジタル&手(アクリルと木製ボード)で作っています。デジタルは画数の少ないテクスチャで、面を見せるのが好きなのであえて画数を減らしています。

 

印刷は絵具のようなきれいな発色ができないですし、ちゃんとしようとすると高価になるので手で作ってます。

 

クオリティコントロールの観点ですね。

ー 作品を作るときのアイデアの出し方はどのようなものですか?

アイデアの出し方は、いろんなことをなるべく自分の中に詰め込んだ末に最後直感で選ぶようにしています。ギリギリまで論理的に、例えばいろんな批判的思考じゃないけど、こういうアートが 流行っているとか、こういうアートが高値で売れたとか、他にも漫画やアートの流行、評論も読んで、今の流行りも知った上で最後に直感で選ぶようにしています。

 

今の流行りだからこれをつくれるな、でも自分らしくないな、と思って最後は全て情報を捨てて作ります。仕掛けようとすると気持ち悪くなるので、結局捨てるっていう無駄なことをしている。

 

これらのリサーチは実は制作に生きている、「これは違ったんだな」という風に作品の輪郭がはっきりしてきて自分の作品の精度が上がってくる感じです。

 

世の中の流れを見て「これを作ったらいいんじゃないか」と思っても、作ろうとすると「これじゃないんだな」と感じる。

ー アート作品を販売する、ということについてどう思いますか。

基本的に自分の世界観を共有して、そのコンセプトを話した上で購入してもらう。自分の中の世界が広がる感覚です。作品が売れると広がりを感じるのが面白いと思います。

影響を受けたアーティスト

ー あなたの作品に影響を与えたアーティストや作品について教えてください。

初めの頃はモネをずっと模写していました。ジャクソン・ポロックは実はモネの影響を受けているという話もありましたし、晩年のモネですね。

 

近年は特定の作品からの影響はもうなくて、いろんな情報を見ていく中で発見していくのでそういう意味ではいろんなアーティストの影響を受けていると思います。

自分の代わりに表現しているものがあると、脳の容量を割かなくていい

ー アートは社会にどのような役割を果たすと思いますか?

ちょっと前に流行った「思考の幅が広がる」「柔軟性が上がる」「ビジネスにもアート思考が必要だ」のようなことは、もうビジネスの方々が近年ずいぶんクリエイティブになってきてその役割は終わったのかなと思います。

 

じゃあアートは不要か、っていうと社会の中で存在し続けています。ただ、必要であり続けられるアーティスト像は難しい。自分はアートを使ってこれをしたい、というツールになっていると思います。

 

私の場合は今だと瀬戸内をブランド化する一つのツールとして用いている。

 

アート全体は個々それぞれの目標達成ツールになっている側面があると思う。

ー あらゆる人が目的を持って活動しているので、そういう意味ではみんなアーティスト、ともいえそうかなと思うんですけど、アーティスト的であることとそうじゃないことの分水嶺はあるか

『みんなアーティスト(艾未未:誰もがみなアーティストでいい など)』、という表現は誰かがした。それをやるとなんでもアートになりすぎちゃうんですけど、人々に求められるアートは価値を見つけ出して社会に伝えるパワーが必要。

 

なので、何かしらの価値を発見し、伝えないとアートとはいえない、その垣根は広がっていると思う。

絵の上手い人がこっそり描いたものよりは、母親を喜ばせるために子供が描いた絵の方がよりアート的と捉えています。自分にとっては社会との関係性をどれだけ生み出すか、が基準になっていると思います。

 

価値をもたらそうというモチベーションだったりとか、活動を含めてアートと言えるのではないか。

ー 手法は先端技術的なものと身の回りを組み合わせるというお話でしたが、今回の作品デジタルとリアルの作品が社会的にどのような価値を生み出すのでしょうか。

そうですね。作品単体ではあまり考えていないんですけども、こういう世界である、というなるべく端的に表したものがあれがそれをきっかけに次に行けると思います。現状への気づき、マイル ストーンのように。

 

他の人が自分の代わりに表現しているものがあると、脳の容量を割かなくていいので、その分 次へのステップを考えることができるんじゃないかと思います。作品を未来へのステップストーン にしてもらえたらと思います。

 

ピッタリじゃなく、批判的な視点をもったとしても、マーキングポイントにはなると考えています。

ー 今後の活動について教えてください。

決まっているのは、デッサンの会での展示、東京でのグループ展への参加などですね。それから、デジタル領域での表現も、もっと探っていきたいと考えています。

ー 本日は楽しいお話をありがとうございました。

名合貴洋さんのプロフィール

1986 岡山県生まれ

2009 米国オクラホマ州立大学化学科卒業

2012 絵画を始める

2013 第10回 小磯良平大賞展 入選

2014 二人展「種の一歩」(アンクル岩根のギャラリー/岡山)

2015 第8回 岡山県新進美術家育成I氏賞 選考作品展

2017 個展「あめつちに和する」 (重玄寺/岡山、他)

2019 個展「Vibration -鼓動-」 (天神山文化プラザ/岡山)

   北東アジア国際油彩画展(内蒙古美術館/中国、内蒙古自治区) アートオリンピア2019 佳作

2020 グループ展「A Scenery」(GALLERY ART POINT/東京)

   テグ・アートフェア(大邱展示コンベンションセンター/テグ韓国)

2021 グループ展「GAIA -the origin-」(M.A.D.S. Gallery/ミラノイタリア)

   BAMA (BEXCO/プサン韓国)

   アート・プサン(BEXCO/プサン韓国)

   モダンアートエナジー展(Galerie SATELLITE/パリフランス)

   グループ展「調律」(between the arts gallery/東京)

   テグ・アートフェア(大邱展示コンベンションセンター/テグ韓国)

2022 「Eclipse」(Galeria Azur Madrid/マドリードスペイン)

   Vision Art Exhibition(岡山駅南地下道)

   グループ展「MISSION I 2022」(GALLERY ART POINT/東京) 

   「Lumiere」(Galeria Azur Berlin/ベルリンドイツ)

   アートオリンピア2022 佳作

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