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Takafumi Tsuji

Artist Interview

グラフティ × サブカル
クールジャパンの新路線を目指す

辻孝文は、19歳のときにニューヨークを旅し、街中に広がるグラフティのパワーに衝撃を受け、その後度々ニューヨークを訪れることで制作の原動力としてきた。音楽にも積極的に関わり、フライヤーデザインやライブペイントも行う辻孝文の、アートの中に見出すものについて聞いた。

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「Baberu」(2011)

描くことは日常だった、幼少期から続く表現への想い

辻は山梨県甲府生まれ。親の離婚をきっかけに母親に付いて8歳で岡山県倉敷市へと移住した。彼の母親は山梨時代から絵画教室を開いており、辻も幼いころから美術館に何度も連れていかれ、美術に親しむ機会が多くあったという。子供時代の辻は漫画やゲームを作る人に憧れがあり、そのために暇を見つけてはたくさん絵を描いていたそうだ。

「特に、鳥山明には強い憧れがあって、どうやったらあんな風に描けるんだろうといろいろ試していた。」

高校は鳥山明が工業高校に通っていたこともあり、工業高校を選択。自分よりもディープなオタクがいて、彼らとの交流の中でサブカルをより深く知ることになる。線の引き方や構成、陰影のつけ方などを、様々な媒体から吸収していく。その後は、岡山にあるデザイン専門学校へと通うのだが、高校のやり直しのような授業に意義を見出せず1年で退学。自己を模索することになる。

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栗林山荘(香川県高松市)での展示の様子

グラフティとの出会い

こうれからどうしようかというときに、辻はアメリカ行きを思い立つ。20年前は携帯電話もなかったので、旅行ガイドブック『地球の歩き方』を片手に、芸術の中心の一つニューヨークへ。
そこでのグラフティとの出会いは彼にとって衝撃だった。「20年前のNYは(都市が整備される前で)本当にわちゃわちゃしてた。」彼はクイーンズに電車でマンハッタンから行くのだが、その電車から見えた風景に圧倒される。町中一面に広がるグラフティ。ビル一棟、エリア一帯。何の工場かわからないが、こんなところまで描くのかというくらいびっしり埋まっていたところに、彼はおっかなびっくり侵入する。近くで見ると圧力が、パワーがとてつもなかったという。

『普通に美術館で見るものじゃなくて、もっと人間の「やってやるぞ」「取りに行ってやるぞ」というギラギラ感というのか、感情が渦巻いているような、何かわからないけれど感じるものがあった。ネガティブかポジティブかはおいておいて、エネルギーが乗っていた。』

彼はその後、ニューヨークを5年連続で訪れることになる。
高校の先生の後輩で、ニューヨークで美術学校の助教授をしている人物を訪ねたり、岡山の古着屋さんの知り合いのアメリカへの買い付けに便乗し、車でのボストンからニューヨークまでのツアーに参加したりと、様々な角度から貪欲に吸収していった。

左:「Before end of start」(2019)

右:「end and start」(2019) 2枚の絵を1枚に編み込んだ作品。

音楽から生まれる感性を自身の芸術に編み込む

ニューヨークから帰り、辻は作品制作の傍ら、友人の音楽イベントのフライヤーを作成したり、ライブペイントをしたりと勢力的に活動する。テクノ・ハウス・ヒップホップなどの音楽仲間との交流で、辻はその要素も取り入れようと試みる。Aphex Twin「come to daddy」のPVなどを作ったクリス・カニンガムの映像からの影響も。辻はブラックジョークをポップに消化する感覚に強く共感するという。

『「あざとい」がうまい人が好き。ブラックなことをすごくうまくやる世界観を愛している。』

繰り返しの世界観

『繰り返されてることの中にヒントがあるような気がして、アート然り、人間然り、やってる根底は変わらず、食べて稼いで寝て……ラッピングはグレードアップしてるけど、やってることは延々と繰り返している。絵の世界もトレンドがあってすたれてまた復活して、ずっとやってることは同じなのになと思ってしまって。今は「繰り返し」というのをテーマにやってる。』

辻は繰り返しながらアップデートされていく世界を一枚の絵で表そうと試み、様々なテーマに「繰り返し」を仕掛けている。例えば戦争がテーマなら、ミサイルやヒトラー顔などのわかりやすい記号を用いて、しかし、それらの記号をわかるかわからないかくらいにぐちゃぐちゃにちりばめる。それによって、より一般化された戦争の絵を出現させようとする。他にも1日を、鮮明に覚えているもの、なんとなく覚えているもの、ほとんど覚えていないものに分類して、画像としてとらえる作品もある。覚えているものは鮮明に、ほぼ覚えていないものはノイズとして画像化され、一枚の絵として編み込まれる。

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「Loop and loop」(2020)花を生命と置き換えそれが無限に増え消えて行く様を「繰り返し」で表現。

自身のサブカル好きと、グラフティのエネルギーの融合

辻は、現代アートの動向についても様子を伺っている。特に、村上隆や奈良美智には影響を受けているという。実際に、村上隆主催の芸祭にも3回出展している。
彼は、グラフティの爆発的エネルギーの中にサブカルを組み込むことはできないかと模索している。流行りの美少女キャラクターではなく、鳥山明の『ドラゴンボール』、大友克洋の『AKIRA』、士郎正宗の『攻殻機動隊』のようなクールなテイストを昇華させることを目指しているという。
グラフティを中心に、音楽、現代アート、サブカルと広いジャンルに興味をもち、自由に吸収していく辻。これらの要素をより高いレベルで結実させるアートの誕生が楽しみだ。

辻孝文 (つじ・たかふみ)

辻孝文 (つじ・たかふみ)

ペインター

1985 山梨県生まれ。

2006 モントリオール国際芸術祭(カナダ)カナダ日本フランス芸術友好賞。2007 メルボルン日本芸術祭(オーストラリア)日豪芸術様式美賞。2010 トーキョーワンダーウォール公募2010 トーキョーワンダーウォール賞。人の営みを軸に、近年は、繰り返される事、物事の多面性をテーマに作品を制作する。

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